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支援者が知るべき心理的背景


「助けて」と声を上げられない人たちがいる。自らSOSを出すことができず、周囲に気づかれることもなく、苦しみの中に閉じこもってしまう。松本俊彦編集の『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』は、そうした人たちへのアプローチを考える上で欠かせない一冊だ。

この本は、精神科医や心理士、支援者、さらには当事者の声も交えながら、さまざまな視点から「助けを求められない」という現象を掘り下げている。その中で、支援者として何ができるのかを問い続ける姿勢が印象的だ。

誰もが「助けて」と言えるわけではない
本書の中心的なテーマは、「助けを求められない」心理的背景にある。多くの場合、私たちは困ったときに誰かに「助けて」と言えばいいと思いがちだ。しかし、この本では、それができない理由がどれほど多様で深刻かを丁寧に説明している。

自己否定感や恥の感情
自分が弱い、価値がないと感じている人は、他人に助けを求めることで「もっと自分がダメな存在だと思われるのではないか」という恐れを抱く。その結果、支援を受けるチャンスを自ら拒んでしまう。

周囲との関係性の問題
家族や友人との関係が希薄だったり、過去に助けを求めたときに否定された経験がある人は、「助けを求めること自体が無駄だ」と感じてしまう。

社会的な偏見や誤解
メンタルヘルスに関する問題は、いまだに偏見や誤解の対象になりやすい。たとえば、うつ病や依存症といった症状に対して「本人の甘え」とみなされることが、声を上げにくくする原因となっている。

支援者は何ができるのか
この本が特にユニークなのは、「助けを求める人を待つのではなく、支援者の側から動く必要がある」という視点を徹底している点だ。SOSが出ないからこそ、支援者は「察する力」を持ち、相手の小さなサインを見逃さない姿勢が求められる。

サインを見逃さない
相手が直接「助けて」と言わなくても、その人の行動や言葉、表情には必ず何らかのサインが含まれていることが多い。そのサインに気づき、優しく寄り添うことで、相手が少しずつ心を開くきっかけを作る。

まずは「安心感」を与える
相手が何を抱えているかを知る前に、安心感を与えることが重要。焦らずに相手のペースを尊重し、「この人なら話しても大丈夫かも」と思ってもらえる関係を築くことが大切。

問題を「共有」する姿勢
支援者は「解決者」ではなく、「伴走者」であるべきだという視点も本書の重要なメッセージ。問題を共有し、相手と一緒に解決方法を模索する姿勢が、信頼関係を深める鍵となる。

現場の声と具体的なアプローチ
本書では、支援者の経験や実際の現場でのケーススタディが豊富に紹介されている。これにより、抽象的な理論だけでなく、実践的なアプローチを学ぶことができる。たとえば、以下のような具体例が挙げられている。

依存症の人が助けを求められない背景にある「孤立感」と「自己否定感」へのアプローチ方法
若者の自傷行為に隠された「誰にも気づいてもらえない」という切実な訴えの受け止め方
児童虐待を受けた人が抱えるトラウマに配慮した言葉のかけ方
これらの事例を通じて、支援者に求められるスキルや心構えを具体的に理解することができる。

誰に読んでほしいか
この本は、福祉や医療、教育の現場で働く支援者はもちろん、家族や友人など、誰かを支えたいと願うすべての人にとって価値のある一冊だ。また、自分自身が「助けて」と言えない状況にあると感じている人にも、読んでほしい内容になっている。

まとめ:支援は「察する」から始まる
『「助けて」が言えない』は、支援のあり方について新しい視点を提供してくれる本だ。SOSを出せない人たちに気づき、そっと手を差し伸べるための具体的なヒントが詰まっている。相手に「助けて」と言わせるのではなく、その前の段階で「どうしたの?」と声をかける重要性を改めて考えさせられる内容だった。

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